tanasuexの部屋

〈宗教の生命は、善をなすことである〉

パリのノートルダム大聖堂の夢解釈! ~5

パリのノートルダム大聖堂の図像の謎解説

 その2として、各レリーフの謎解釈です。

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パリのノートルダム大聖堂の西薔薇窓のステンドグラスにも「美徳と悪徳」が表現されています。

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  聖像破壊者たちによる愚かしい破壊行為や、かつてこのすばらしい大聖堂が備えていたはずの多色彩飾が完全に消失してしまったことにはたびたび悲しまされた。探求者が頼りにできたり、年月による毀損の復原に少しでも役立つような文献は何一つ見つかっていない。しかしかといって、古文書を丹念に調べたり古版画を一枚一枚捲るという空しい努力はいらない。なぜなら、中央入口の彫像群のもとの色彩はノートル・ダムそのものの中に保存されていたからである。
 ギョーム・ド・パリスは、自分の作品が歳月によって相当な毀損を被るであろうことを予見して、中央薔薇窓のステンドグラスに入口の円形浮彫りを細密に再現させていたのだ。これはじつに思慮深い判断というべきで、その炯眼(ケイガン)には大いに讃辞を唱えなくてはならないだろう。かくて硝子は石を補完し、秘教はこの割れやすい物質の支えを得て、今日もなお本来の純粋さを回復しえるのである。

 ステンドグラスにおいては、入口の円形浮彫りでは不明な部分の理解も可能になる。たとえば「再留」(傲慢)※1の寓意図像は、卑俗な騎手ではなく、赤い靴下を履いて白衣を着た王子であり、喧嘩する2人の子どもたちのひとりは緑色で、もうひとりは灰紫色である。(不和) メルクリウスを蹴り転ばす王女は白い王冠をかぶり、緑色の上位と緋色のコートを着ている。(冷酷) その他「赤い色のテーブルについて袋から大金貨を取り出す秘術師」(貪欲)「鏡の前で髪を梳かす緑色に緋色のブリオー姿の女」(淫蕩)※2「1人は紅玉色もう1人は緑玉色の双子座」といった、西正面玄関では消失してしまった図像が見つかるのにも驚かされる。と、フルカネリは述べてます。

 [「大聖堂の秘密 」 P133 より]     ※ 1 緑文字部分は編者が挿入  

 しかし、調べた結果、現在の薔薇窓のステンドグラスは、ほとんどが現代の修復であり、一部が16世紀から18世紀のものなのです。               ※ 2 淫蕩について

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 この西薔薇窓は、現在はパイプオルガンが障害となり一部が見えません。又この薔薇窓の修理・補修も無分別に行われている箇所もあり、すべてが当時のステンドグラスの図像であったかは歴史の彼方に消え去ってしまっています。

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  今日、13世紀のパネルは12枚ほどしか残っておらず、この2枚はその一部です。
 左は「優しさ」、右は「臆病」です。1220年頃の作品で劣化や汚れや透過性が悪い状態がみられます。そのため、1500年から少し下った時代から作り替えられているのです。   

以下は現在の西薔薇窓ステンドグラスの図像の一部です。

  (四つ葉枠が「美徳」を、丸枠が「悪徳」を表現しています)

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それでは「信仰」と偶像崇拝」のレリーフから解説していきます。 

 図の説明は、「ゴシックの図像学(上)」(エミール・マール著)の解釈を踏まえつつ編集人の見解を述べています。特にコメントがない場合は省略しています。

  謎解釈は、「大聖堂の秘密」(フルカネリ著)からの解説をメインに記載しています。その他の解釈があるときは別に示します。

          [出版社はいずれも『国書刊行会』です]

 (鍵)1

美徳1「信 仰」  [4大と2原質]

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  (ア)はアミアン大聖堂を、(パ)はパリ・ノートルダムを示しています。

図の説明 (ア)では、十字と聖杯の描かれた盾を持っていましたが、(パ)では、円盤に十字とその左上に〇があり、そのまた中の●には赤い塗料が残っています。それではこの〇と中の●の図像は、何を表しているのでしょうか?。ずばり「太陽」です。「錬金術」の記号の一例を下記に示します。

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f:id:tanasuex:20200409210924g:plain は、「太陽」を表します。とするとこのレリーフは次のような解釈をすることができるでしょう。

 謎解釈 円盤に十字紋様の入った「哲学」がみつかるであろう。ここには4元素と二つの金属原質、つまりヘルメスによれば「石」の両親である「太陽」と「月」(ただし月は槌で破壊されている)、「硫黄」と「水銀」が表現されている。

※ しかし、この十字のレリーフ図像は、十八世紀に作り直されており、、もとは聖杯もあったであろうといわれています。また薔薇窓の「信仰」は聖杯に入った十字架を持っているが、それも作り直されています。それでは初期の図像はどうだったのだろう?

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(鍵)2 

 悪徳1「偶像崇拝  [賢者の材料] 

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図の説明 (ア)では、偶像を礼拝する人物像とされていますが、この(パ)レリーフの手の組み合わせ方をよく見ると合掌しておらず、手の平を上にして「感謝のしぐさ」をしているようにみえます。(ア)も拡大してみると合掌はしていないように見えます?。西バラ窓の図像は、はっきりと合掌していますけど・・・。

  謎解釈 奥義通暁者が、祈るように合掌し、鏡の中の女性半身像の「自然」に感謝の言葉を述べている様子である。この図像には、「自然のすべてをありありと写す」鏡、すなわち「賢者の材料」の表象が確認される。

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美徳2「希 望」  [進展──大作業における色変化と過程]

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 図の説明 (ア)では二つ又の旗であり、十字架がついており、又王冠がありますが、こちら(パ)では三つ叉になっていて、また王冠は破損したと言われております。西バラ窓では、王冠を手に持つ図像は「勇気」となっています。

謎解釈 三つ叉に切れ目の入った旗がある。これはあらゆる古典書に言及のある錬金作業の3つの色変化をしめす紋章である。 

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美徳3「慈 善」 [万能溶解液の調製

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 図の説明 パリでは、彼女は一頭の牝羊に飾られた楯型の紋章を手にしているだけである。事実、牝羊は自己放棄の感動的な象徴である。トゥーイのルーペルトは、「牝羊は強き者たちにその肉を、弱き者たちにはその乳を食べ物として与え、裸の者たちをその毛で包み、寒き者たちを温めるためにその皮を脱ぐ」と述べている。
 『道徳の鏡』では、聖トマスにしたがって、「愛」のあらわれは内的なものと外的なものに分けられている。内的あらわれとしては平和と歓喜と慈悲が、外的あらわれの一つとしては慈善が挙げられている。

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※ シンプルな図像では、牡羊か牝羊かは、わからず美術史家により解釈が違っています

 謎解釈 この図像は、万能溶解液の成分である「水の中に閉じ込められた秘密の火」の製造法の準備に用いられる原料をしめしたものである。1人の男が牡羊を見せ、右手に残念ながら今日で判別できない何かをもっている。これは鉱物か標章の断片か、あるいは道具か、布きれの一部であろうか。歳月の流れと愚かな破壊行為のために、もはやそれを知ることができなくなった。しかし牡羊は残っており、男性金属原質の標章である人間が、牡羊の姿を見せている。この図像は、「奥義通暁者たちは『鋼』を『牡羊の腹』から取り出すといい、この『鋼』を『磁石』というあのペルヌティの言葉を理解するのに役立つであろう。

悪徳3「貪 欲」 [サトゥルヌスの過程]

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図の説明 (ア)では、箱いっぱいに財産を蓄えるとされていますが、こちらの人物像は、何か悩んでいるように見えないでしょうか?。

 謎解釈 寒さに凍え、疲労困憊した老人が身体を丸めて石塊に手をついている。左手はマフのようなものに差し込んでいる。この彫刻には第二の作業における第一の局面が認められる。錬金炉の中央に閉じ込められたヘルメス学的レビスが、崩壊の苦しみに耐えながら壊死しようとしている。それは「車輪の火」を象徴した冷気と冬の活発で穏やかな始まりである。冬は哲学的土壌に埋められた種子が発酵と湿気の影響を受ける萌芽期を象徴する。やがて、完全な溶解と分解と黒色の紋章である「サトゥルヌスの過程」があらわれる。

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 (鍵)3   

美徳4「貞 節」 サラマンドラ──煆焼

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   煆焼(かしょう、calcination、calcining)とは、鉱石などの固体を加熱して熱分解相転移を起こしたり、揮発成分を除去したりする熱処理プロセスである。

図の説明 このサラマンドラは、西バラ窓の図像では、1羽の鳥となっていますが、このことについて、エミール・マール氏は、鳥の方が間違いではないかとしている!

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サラマンドラは、神秘主義錬金術等の『「宇宙の中の自然の顕現を支持する生命に形体を与える力(エーテリック)の4大、すなわちノウム(地の精)は、「地」の生物であり、シェルフ(風の精)は「風」の生物であり、ウンディネー(水)は水の生物であり、サラマンドラは「火」の生物としてある』そのイメージとして、「火の中に住むトカゲ」として表現されている架空の生物です。 

【 炎のシンボル──サラマンドラについて 】

『 オカルトの世界というのは、隠された世界なのである。ではしかし、なにから匿まわれているのだろう。まあ当のオカルティストはたいてい、かれらにはなじみの世界が、ふつうの人の目には隠れて見えないのだと主張する。多くのオカルティストが口にするところでは、この隠された領域はだれでも思う存分見られるものの、一般に特別な準備がいるという。だが大多数の人は、ふつうの時空の世界にどっぷりつかって生きていればご満悦のようす。別の時空を有する別世界が、この世の四方八方に混入しているという事実など、頭にないのだ。
 はるか遠い過去から伝わるオカルトのシンボルは、どれをとっても、ふつうは見ようにも隠れて見えない異時空間の性質をめぐる情報をもたらすことを命題としている。では隠された世界、目に見えない領域を、どうしたらふつうの絵でも表現できるのだろう?たとえば霊界を表すのに使われる炎でもいいから、これまでに俎上にのせたことをなにか思いうかべてみてほしい。さて、凡人が火を見つめると、火はパチパチと上に飛び散っていく。そのさい、炎が空中の酸素によってあおられることや、自分が今見ているものが白熱ガスであることは、たぶんわかるだろう。いっぽうオカルテイストやイニシェートが、ぐっととぎすまされた目で炎を見つめると、今度目にうつるのは白熱ガスだけではない。太陽の力とじかに結びついた、いわば生命力のようなものが見えるのだ。また、特殊な霊的存在によって(地上の万物と同じように)火に生命が吹きこまれるのも見える。こういう霊的存在を今のオカルティストは「サラマンドラ(火トカゲ)」と呼ぶ。サラマンドラは、オカルト界ではその変わりやすさで有名だ。あっというまに姿形を変化させ、火をおおいに好む。それもそのはず、サラマンドラは火がないと生きていけない。これは人間が空気なしでは生きていけないのと同じであって、オカルト関係のドローイングのなかには、炎を浴びて狂喜するサラマンドラを描いたものも少なくない。

 美術家は炎を絵の具で描きたくても、その動きは描きだせないと悟る。そこで美術家は慣習を容れ、火がまるで静止しているように描かなくてはならない。たとえ火について肝心なのは、それが絶えず動いていて熱いことだと熟知していてもだ。このように火にまつわるふたつの眼目──その動きと熱──を、美術家は紙に表現できない。そのため・・・・、多くの舌状の形で火を表わすという慣習が一般に受けいれられている。いっぽうオカルティストが炎のなかにサラマンドラが棲んでいるのを見て、それがどういうものなのかを表現しようとするときも同様だ。オカルティストも知っているように、サラマンドラでももっとも大切なのは、その活気、その喜び、そのはつらつとした動きであり、暖かいのが大好きだと言うことである。だがこうしたことは、どれも当然紙には表現できない。だから、オカルティストは、このたぐいまれなる創造物を、炎を一身に浴びたイモリや小さなドラゴンの姿で表現するしかないのである。』 

     (「オカルトの図像学」フレッド・ゲティングス著より)

 

 謎解釈 炎のように波うつ長い髪の女である。この女は「煆焼」の擬人化であり、「火の中に棲み、火を喰う」サラマンドラ(火蜥蜴)の円盤を胸に抱えている。この伝説のサラマンドラが象徴するのは、先人たちが「金属の」とよんだ、煆焼された金属の灰の中にいたるまで性質を保ちつづける、不燃かつ不変の「中央の塩」にほかならない。激しい火の作用の中で、物質の焼灼可能な部分が壊れ、あとに残った純粋で変質しない部分だけが、外的な作用に反応しにくいとはいえ侵出によって抽出されうるのである。 

   このレリーフも「不正義」(淫蕩)のレリーフと同じく完全に作り直されているという意見もある。

悪徳4「不正義」  [計 量]

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図の説明 (ア)では、「淫蕩」であり、女性を男性が抱きしめていますが、こちらは(不正義)として、不正確な天秤を手にしているとされています?・・・・。

 謎解釈 錬金術師が天秤から覆いを外している…………。彫刻に登場した天秤は、金の採取を可能にするはずのこの旧来の方法における重要な測定器である。

  このレリーフは、フランス革命のときに破壊され、18世紀に新しく作成されたものです。ですから13世紀の図像解釈として理解することは疑問です。しかし・・・。

 (鍵)4

美徳5「賢 明」[哲学者のメルクリウス]

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図の説明 (ア)では、画像が不鮮明で一匹の蛇なのか、棒に絡まっているのか、二匹の蛇なのかはっきりしません。以下の真ん中のWHOや救急車のアスクレピオスの杖の蛇か、右側のヘルメスの杖の蛇かよくわかりません。

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これは、最新のアミアン大聖堂の「賢明」のレリーフです。頭部部分が、単純に塗りつぶされて補修されているために、口を開いていたのか、二匹の蛇だったのかわかりません。しかし、楯を持つ指の補修はしっかりとされており、修理・補修の悪い例では? また胴体部分のくねりも風化により消えてしまっています。残念です・・・。

 謎解釈 金の杖に絡みついた蛇たる「哲学者のメルクリウス」をあらわしている。フラメル(*)がたまたま手に入れた本の中で、エレアザルの名で知られる「ユダヤアブラハム」はこの標章をもちいているがこれは何ら驚くにあたらない。この象徴は中世の全般にわたって登場するからである。(*) ニコラ・フラメルの真実として、ブログ~11を参照ください

 

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   ──追加工事中── 

      

ところでこの蛇の象徴は、創世記のエデンの園の蛇と同じ象徴としての蛇です。これについては、このノートルダム錬金術シリーズのあと、創世記とエデンの園の物語の「天界の秘儀」解説で書き込みする予定です。

 (鍵)5 

悪徳5「狂 気」 [石の起源と結果]

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図の説明 (ア)では、刃物のような物を手にし、口には食べ物をほおばっていますが、こちら(パ)レリーフとは少しイメージがちがいます。また(ア)には生命の木がなく、パリの薔薇窓のステンドグラスにもないのですが、シャルトルのレリーフでは表現されています。    ※ 又、このレリーフも修正されているとされています。

図謎解釈 教導者が片手に鏡を、もう一方の手にアマルティアの角をもちあげており、近くには「生命の木」が生えている。鏡は錬金作業の開始を、生命の木は終わりを、豊穣の角は結果をそれぞれ象徴する。

 

左は西薔薇窓のステンドグラスに示されている「狂気」、右はシャルトルのレリーフです。  

美徳6「謙 虚」 [カラス──腐敗

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図の説明 美術史家は、この鳥を「鳩」ととらえている。西ばら窓のステンドグラスの「謙虚」の鳥も白色であり、鳩とイメージしている。しかし、このレリーフは、作り直されているともされている?  エミール・マール氏は、「浮彫も、ステンドグラスも、写本挿絵さえも、この紋章を忠実に再現している。この鳥は鳩であると確信をもって断言することができる」と述べている。下記の「傲慢」の画帖に鳥も記載されています。

さあーハトかカラスか、どちらとして理解されますか?   次に参考として

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 このレリーフは、マール氏の述べるように「傲慢」との対比や過去の写本などから、9割方、「ハト」と思われます。一割ほどは、この西扉口のレリーフ群が完成したとき、扉口の全般にわたって、極彩色に飾られていましたから、この図像の鳥が、「黒色」で彩色されていたかも知れないからです。??? 

 しかし、それは歴史の彼方であり、現在では知る術がありません。

  現在の西バラ窓の図像も「ハト」で示されていますが、フルカネリは、西バラ窓の図像を信頼しているはずなのに、この「白い鳥」に言及しておらず「黒い鳥」のカラスとして解釈しています。

 以下の謎解釈は、「ハト」であるとすれば、マール氏の言うようにレトルトを吹く者の夢解釈となってしまいます。
 「カラス」錬金術関連では重要な象徴動物ですので、それを解説すべく、このレリーフで解説したのではと思われます。しかし、それよりも錬金術関連の「ハト」を象徴としての解説をした方がよかったのではと思います。以下の錬金術関連の写本には象徴としての「ハト」が記されています。

※(追記) その後、一部の錬金術者は、ハトとカラスを同一の象徴として、読み込んでいることを知りました。(ハトを錬金術関連のカラスとして読み込んでいます。)

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謎解釈 この彫刻は「黒色」の象徴である烏(カラス)をあらわしている。膝の上に烏の円盤を載せた女が象徴するのは「腐敗」である。烏の表象には、錬金術における重要な段階が隠されているからである。実際、烏は、「哲学的レビス」の焼成における、「黒色」、つまり「卵」の原料の完璧な調合によって起こる「腐敗」の最初の様相をあらわしている。哲学者たちの言によれば、これは将来の成功を確約するしるしであり、混合原料の正確な調製をしめす明白な合図である。烏は、星が始原の材料につきものの署名であるように、いわば錬金作業が規定通りであることを教える印璽なのだ。

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※この写真は、神秘学やオカルトの文献によく利用されている写真であるが、右は明快な錬金術のシンボルの図像ですが、左のレリーフを単に無条件にカラスとして理解し、パリ・ノートル・ダム大聖堂には「錬金術の鍵」が記されているとされていますが、左は「鳩」であることが確実ですから、これらの写真の解説は誤謬だと思われます。

 悪徳6「傲 慢」  [再 留]

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図の説明  「傲慢」の図像について

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 すべてが当時のステンドグラスの図像であったかは歴史の彼方に消え去ってしまっています。と、バラ窓の箇所で書きましたが、それに関して「ゴシックの図像学」の中で記載がありました。それでいかのコメントを追加します。

 このバラ窓のマール氏の「傲慢」の画像の間違いは、【パリのノートルダムのバラ窓はLenoireの著書に載せられた模写からも分かるように、いくらか修復されているが、F.de.Lasteyrieの著書によって以前の状態を知ることが出来る。】と述べており、マール氏は、その修復の違いを知っていることによる誤謬と思われます。

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謎解釈 馬から振り落とされそうになった騎手が必死にたてがみににしがみついている。この寓意彫刻は、「哲学的溶解」における、揮発物またはエーテル質による、物質の中央にある純不揮発性要素の抽出に関するものである。

 美徳7「勇 気」(力)   [不揮発物

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図の説明 パウロは「主に依り頼み、強くなりなさい・・・対抗して立つことができるように、神の武具を身につけなさい……………正義を胸当てとして着け、信仰を盾として取りなさい……救いを兜としてかぶり、霊の剣、すなわち神の言葉を取りなさい」(エフェソの信徒への手紙6章10-18節)と語っている。

 又、ラバヌス・マウルスは、「ライオンはその勇気によって動物たちの王である。〈箴言〉の書は、ライオンが獣たちの中で最も勇気があり、何者に出会おうとも恐れることはないと述べている」と語り、その図像化とみられています。

 謎解釈 一般に獅子は錬金術的にも性質的にも黄金をあらわす記号である。そのため獅子は物体の物質的化学的属性をあらわしているといえる。しかしどんな文献にも、「世界精気」、つまり溶解液の製造における「秘密の火」の受容体もまたおなじ名前でよばれているのがみつかる。これはつまり、「黄金」にしろ「世界精気」にしろ、「力」、「不朽性」、「完成」のことをいわんとしているわけである。もっともその意図は、剣を振りかざす鎖帷子姿の騎士が錬金術的な動物の王を掲げる像によって十分にしめされている。

悪徳7「臆病」

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図の説明 レリーフでははっきりしませんが、バラ窓の図像は初期のものであり、確実にうさぎであり、牡羊ではありませんので以下の解釈は疑問です・・・。

 謎解釈 第二の溶液、すなわち哲学者の水によって得られる赤色あるいは白色の硫黄の溶液があらわされている。戦士が剣を捨てて木の前で呆然と立ち尽くしている。木には巨大な丸い果実が三個実り、根元には一頭の牡羊がいる。枝からは一羽の鳥の影がみえる。ここにもまたル・コスモポリトが『自然についての論考』の『寓話』において詳述した、水を抽出すべき「太陽の木」がみつかる。戦士は錬金作業における調製、すなわち「ヘーラクレスの功業」をなしたばかりの秘術師である。牡羊は秘術師が理想的な季節と作業に相応しい物質を選んだことを、鳥は「地上的であるよりは天上的な」化合物の揮発性をそれぞれ明示する。・・・・・

 美徳8「忍 耐」 [哲学的硫黄

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図の説明 一般的な解釈では、牡牛によって象徴される「忍耐」とされているが、マール氏も検討の余地があるとしている。

 謎解釈 この彫刻は黄道十二宮の1つのように思われているが、実は第一の作業における予備作用の第二の月であり、第二の作業における火の元素の第一の過程である。実際、牡牛は太陽に、牝牛は月に捧げられているとおり、牡牛は男性原質の硫黄を象徴する。というのも、太陽はヘルメスによって「石の父」と暗喩的によばれているからである。よって牡牛と牝牛、太陽と月、硫黄と水銀はそれぞれ同じ意味の表象であり、結合以前の相反する原初の性質、すなわち不完全な混合体から「術」によって抽出される性質をあらわしている。

 美徳9「優しさ」 [不揮発性と揮発性の合一

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図の説明 腰あたりの破損部分には、羽があったのかも知れません?

 謎解釈 不燃の赤い硫黄の抽出は雄鶏と狐を手にする怪物の象によってあらわされている。これはバシリウス・ヴァレンティヌスが『12の鍵』でもちいたのと同じ象徴である。この奥義通暁者は、「変質しないよう用心深く保護された、この天上的な硫黄につづくのは、星辰の塩のついたあの素晴らしい外套である。それは必要なだけ両者を鳥のように飛ばせるのであり、雄鶏は狐を喰らい、水中で溺れ、窒息し、火によって蘇生し、こんどは狐に喰われて互いに役割を交代する。この流転は交互に繰り返される」と述べている。???

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  上図の両方の絵柄は非常に似ており、同じ錬金術の作業と考えられます。バシリウス・ヴァレンティヌスは「雄鶏と狐」(左の図)、ニコラ・フラメルは「鷲と獅子」(右の図)、シラノ・ド・ベルジュラックは「小判鮫とサラマンドラ」として表現されています。このように錬金術師によって作業工程の象徴表現の動物が異なっていることが分かると思います。また、象徴表現の固有名詞は複数の意味を持っており、第三者には理解されないようにされており、これが錬金術文献では日常のことであるのです。

【 個人的な見解として、美術史家はレリーフの解釈が不明な時は作り替えられているとコメントし解釈しないで、錬金術等の神秘主義の解釈の場合は、作業・理解がはじめにあって、象徴の動物を入れ替えて表現・解釈していることが理解されるでしょう。フルカネリも明らかに別の動物とすり替えて解釈しています。はっきりと錬金術の象徴のシンボルが表現されている場合はよく理解できるが、単なるキリスト教象徴図像なのに、それを錬金術の鍵として解釈する場合は「疑問!」の感じを受けます。!!! 】

悪徳9「冷 酷」 [逃亡奴隷たるメルクリウスを蹴り飛ばす王女]

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図の説明 特になし

 謎解釈 この彫刻は、「卑俗な水銀」の装飾であり、もとの液体金属と区別するために「われわれの水銀」と呼ぶ「哲学者の卑俗な水銀」を手に入れるための作用のことである。この作用については、完全に昇華して一切の不純物と無縁になった卑俗な水銀は、以前にはなかった火を放つ特質を備え、こんどは溶解液になることができるらしいのである。皿を手にして仕えにきた従僕を、王座に座った王女が蹴り倒す図像は、この作用をあらわす。

 美徳10「調  和」[溶解液の調製に必要な材料]

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図の説明 (この部分は修復部分にあたり当時の姿をつたえていないとされている)

 謎解釈 女がヘルメス学的容器の製造に必要な材料を寓意的にしめしている。樽の側板に似た小さな木の板を持ち上げているが、木材の種類は円盤に彫刻された樫の小枝が明示している。玄関の控え壁にあった「神秘の泉」(鍵8)が思い出されるが、ここでは人物の所作によってあの物質、つまりそれなくしては地上のなにものも成長できない「自然の火」の霊性があらわされている。

 悪徳10「不 和」 [溶解──2性質の戦い

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図の説明 ここに描かれている人物の姿は、頭と身体のバランスから、大人ではなく、子供だと思われますが、いかがでしょうか!(各レリーフの人物像はどれも子供っぽい像なのですが・・・男の子と女の子です。)バラ窓のステンドグラスの図像は明らかに大人の夫婦のようですけど・・・。

 謎解釈 ノートル・ダムの彫刻表現は人間らしさや親しみやすさを備えるからといって威厳や表現力に欠けるわけではない。たとえば、2つの相反する性質が子供たちの喧嘩によって描かれている。2人は殴り合いの手をやめるどころか、あげくの果てに一方は壺を、もう一方は石を落としている。重い物質に対する「ポントスの水」の作用をこれ以上明快に描くことはできないであろう。

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美徳11「従 順」 [硫黄と水銀の結合

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図の説明 この図像は、グリフォンかなあ? ラクダに見えるのですけれど!

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  多くの描写では足は鳥のような鉤爪であるが、古い絵ではライオンの前肢の物もある。紋章学では、これにラクダのような長い首と尻尾を持つものを Opinicus と呼ぶ。

  中世の伝承において、爪は医療効果を持ち、羽根も失明を治すと信じられていました。そのため、中世ヨーロッパの宮廷では、グリフォンの爪(実際はレイヨウの角)やグリフォンの卵(実際はダチョウの卵)で作られたゴブレットが珍重されていました。

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謎解釈 グリフォン(鷲頭の獅子)」である。頭と胸が鷲でその他の部分が獅子であるこの神話の怪物は、哲学的原料のなかに集めなくてはならぬ相反する二性質を探求者に教える。

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 悪徳11「反逆」

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 謎解釈  老人と戴冠した王、つまり溶解液と物質、揮発性原質と純粋不燃の不揮発性金属塩との出会いが表現されている。

(鍵)6  

美徳12「堅忍不抜」 [錬金炉と石

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図の説明

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謎解釈 錬金炉の縦断面と、哲学の卵をささえるための内部構造があらわされている。人物は右手に「石」をもっている。

 (鍵)7 

悪徳12「不服従」 [聖域の入り口

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図の説明 (ア)レリーフとは身体の向き、足の向きが違っている。

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この(ア)レリーフは、一般に「移り気」と呼ばれています。無帽の、ひげのない、剃髪した聖職者か修道士で、頭巾のついた臑のあたりまでたれた法衣を着ている。男は、ズボンと半長靴を脇へ捨てて、円筒形の鐘塔がぎこちなくついた、細長窓の、美しい遠くの小教会から離れてゆくようである。

 しかしフルカネリは、(パリ)は作業の開始を、アミアンは逆に終了を、象徴しているという。教会とはむしろ錬金炉のことであり、建築学的に無茶苦茶な造りの鐘塔とみえたものは、哲学の卵を蔵する秘密の竈である。竈には開口部があり、秘術師はそこから作業の諸局面を確認するのです。また、基部にくり抜かれたアーチについて、図のような四脚の剥き出しの基台の上に教会堂が築かれることは普通ありえない。アミアンの装飾は、ヘルメス学的な象徴彫刻であり、煮沸と専用の器材をあらわしたものと考えるべきなのである。錬金術師が右手で指し示しているのは炭の入った袋である。靴を捨てる動作は、この秘密の労役において慎重さと沈黙の配慮をどこまで推し進めなくてはならないかを十分にあらわしているとする。 

 謎解釈 「神秘の王宮」の門口を通り過ぎようとする老人である。老人は俗衆の目から門を隠していた天幕を外したところである。これは実践の第一歩の達成であり、不揮発物をもとの形相と同等な状態に「還元」、あるいは慣用表現によれば「再組織化」できる因子の発見である。

 

 

次回は、12の美徳・悪徳とは明確に分け隔てられた控え壁のレリーフの解説です。